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それいゆコラム
コラム 深澤徳氏 「自分流で時流を読もう」
第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 最終回  

第2回 「コンテクストの芽」を蓄えよう

 前回、時代の流れが「コンテクスト」というものに向いているのではないか、ということに触れました。そういえば、プロ野球の巨人軍が、日本ハムの小笠原選手を獲得しましたが、これなんかも「コンテクスト」という視点から考えると、ちょっとどうなのかなという気がします。巨人軍はいつも他球団の有力選手を獲得することで、戦力強化と人気回復を図ってきました。言ってみれば、強力「コンテンツ」を集めるということですよね。それに対して、最近元気のいいロッテや日本ハムは、ファンサービスに力を入れ、地元に根ざしたチーム作りによって人気を得ています。こちらは、チーム・個々の選手・地元ファンという関係性、つまり「コンテクスト」に重点を置いたことが、功を奏したといえるでしょう。巨人軍の人気低迷は、勝てないことだけが原因ではないような気がしますがどうでしょうか。
 さらに「コンテクスト」は、時代の流れを読み解く方法としても大切だとも述べました。流行や時代の兆しとして気になるモノやコト、そんな複数の「コンテンツ」同士をつなぐ、背景としての「コンテクスト」を読み取ることができれば、時代の流れや人々の関心の方向が見えてきます。そのためには、「コンテンツ」の収集と、それらを結ぶ「コンテクスト」の解読作業が必要であることは言うまでもないでしょう。ですから順番からすると、モノやコトの収集が普通は先に思えます。しかし、私自身の経験から言うと、漫然と世の中を見渡しても、時代解読に役立ちそうな事象が、そう易々とは見つかりません。まず、何となく世の中がどっちに向いているのか程度の、漠然としたものでかまわないので、「コンテクストの芽」ともいうべき仮説を頭においておくことが必要です。
 もう一年前になりますが、小泉自民党が選挙で圧勝したとき、保守自民と小泉改革、つまりは「古いものと新しいものの混在」ということが気になりだしました。そうして街を見てみると、メロンパンに目が留まったのです。フレーバーなど新しい装いを凝らしたことで、昔からあるメロンパンがちょっとした復活ブームになっていました。ここで、小泉自民圧勝とメロンパン復活が、「馴染みの古いものに、新鮮な装いと価値を与える」という時代の気分でつながりました。すると、昭和を題材とした映画や小説人気、懐メロの新しいアレンジによるカバーなど、次々と流行コンテンツが、ひとつのコンテクストに結実していったのです。ちなみに一年たった今も、個々の事象の変化にかかわらず(自民の改革の行方も不透明になってしまいましたが)、「古い土台+新しい外装、価値」という時代の基底は変わらずに、復刻ブームなどに現れています。
 これを図式化すると、「糸口コンテンツ:小泉自民」+「コンテクストの芽:新と旧」→「実証コンテンツ:メロンパン」→「結実コンテクスト:古い土台+新しい外装」となります。もし、コンテクストの芽を頭に置いておかないと、次のメロンパンを見落としてしまい、時流を捉まえ損なってしまいます。そして、集まった事象によってその芽を検証・修正し、それがまたコンテンツ集めの拠りどころとなってゆきます(もちろん、結果的に芽が却下されることも多々あります)。つまり、あらかじめ「コンテクストの芽」を豊富に蓄えておいたほうが、収集も解読もスムーズに行くのです。
 では、「コンテクストの芽」を蓄えるための手段は?それは、本を読むことに尽きます。私の経験の中ではこれに勝るものは今のところありません。というのも、「コンテクスト」を探り時代を解読するとは、最終的に概念化、文章化、キーワード化などなど言葉にするということであり、言葉を仕入れるにはやはり書物が一番だからです(もちろん、書物に準じるネット上の論考、講演、紙誌の評論なども含みます)。
 では、どんな本を読むべきでしょうか。以前、広告のクリエイターをしていたときに、後輩たちから、日頃どういう勉強をしたらいいのかと聞かれました。反対にどうしているのか聞き返すと、彼等は一様に広告の専門誌を読み、新しいCMをチェックしているとのこと。確かに、必要なことではありますが、それではどんどん先細りしてしまいます。いまや大御所のコピーライターの先輩たちは、言葉は悪いですが大抵は小説家クズレでした。だから当然、文章力や文学の素養は並大抵ではありません。ある著名なコピーライターなどは、古今東西あらゆる詩人の作品を読破したそうです。文章表現ということにおいて、詩や文学という大きな領域を学んでいるからこそ、コピーも難なくこなせるのです。ところが、広告のことだけ勉強していたのでは、広告の領域が限界ですから、それよりも小さな範囲のものしか造れなくなってしまうのが理屈です。実は、最近の広告が以前ほど面白くないのは、こうした理由にも因るのです。昔は、小説家や映画監督を目指しながら、食ってゆくために広告の仕事をしているというクリエイターが多かったのですが、今は、広告クリエイターを最初から目標として就職してきた人がほとんどです。
 つまり何が言いたいのかというと、今自分が関わっているカテゴリーやジャンルよりも、一回り二回り包含するような領域、高次元のものを意識して吸収することをお勧めしたいのです。そうすれば、自身の環境とそれを取り巻く変化を、客観的に俯瞰できるようなポジションがつくれます。私の場合は、エンタメやアートを主としたプロモーション、そしてもちろんこうしたコラムや時流分析を生業としているため、社会や人間に関わるものすべてが範囲といえます。とくに系統立てて、読んでいる訳ではありません。目に付いたものを通覧し、その中の気になったワードや概念などをチェックしておきます。こうして、「コンテクストの芽」を引き出しに蓄えることが、時流解読の大切な基本作業になります。

深澤徳氏

(株)メディアボックス プランニング室
チーフプランニングディレクター
深澤 徳

1957年東京生まれ。1979年慶應義塾大学経済学部卒業、同年I &S BBDO(当時第一広告社)入社。広告クリエイターとしてキッコーマン、明治製菓、マツダなどのCMを制作(ACCほか広告賞多数受賞)。1987年から10年間に渡って、セゾングループの文化・CI戦略プロジェクトへブレーンとして参画。その後マーケティング・プランナー、コンセプターを担当。その間『消費の見えざる手』『In-Site』といった時代分析等の出版物の企画・執筆も行う。2000年にI &Sを退職後、潟激塔Rーポレーションを設立。チェコのアニメを主とした映像配給事業を手がけ、そのほか舞台公演など文化事業の企画や批評活動に携わる一方、NPO法人リアルシティーズの理事としてカルチャー情報サイト「REAL TOKYO」のサポート、寄稿を行う。2005年にレンコーポレーション退任後、現在は東京テアトルグループの広告会社である潟<fィアボックスに在籍、メジャー配給映画の宣伝・プロモーションを中心としたプランニングを行っている。

鰹、業界より刊行されている月刊『販売革新』に、時代潮流を解読するコラム「マーケティングのものさし」を連載中。

また写真やカルチャーなど私的関心を綴ったブログも公開中。
http://wander-dist.cocolog-nifty.com/

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