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それいゆコラム
コラム 深澤徳氏 「自分流で時流を読もう」
第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 最終回  

第4回 アブダクションとセレンディピティ

 さて、「コンテクストの芽」と「コンテンツ」が揃ったらどうするか。それらを、どう結び付けたり、背景のストーリーを見出したりすればいいのでしょうか。アブダクション(abduction)という言葉を、お聞きになったことはありますか。宇宙人に連れて行かれちゃうのも、アブダクションといいますが、それとは違って、推論の組み立て方のひとつのことです。演繹法とか帰納法というのは、ご存知だと思いますが、そういった推論の方法のひとつです。日本語では「仮説設定法」。何だか難しそうですが、演繹法や帰納法よりも実際的で、実は皆さんも無意識のうちに同様の思考をしていたりします。
 簡単に説明してみますね。まず、「演繹法」は、言ってみれば「理想主義者」。事前の検証からこうあるべきという仮説を掲げ、それに向けて取り揃えた事柄を吟味し、正しさを証明し結果を導こうというもの。「帰納法」は、「現実的な大人」。冷静に事実を見極め、集めた事例から共通点や傾向を絞り込み、粛々と仮説を見つけ出し結果に至る。
 それに対して「アブダクション」というのは、「夢見る子供」とでも言えるでしょうか。まず、ぱっと結果がひらめきます。まるで子供が常識とか無視して、突拍子もないことを思いつくような感じです。そして結論に見合う仮説を準備してから、実際の事例の森にわけいります。「こうだったらいいのになぁ」という夢の結論があって、それに向けて試行錯誤してゆく、こうした道筋をたどった発明物語も少なくないはずです。皆さんも、企画などの仕事で、先に結論を思いついてから、後から肉付けしたなどという経験をお持ちではないでしょうか。えてして、その方が正解だったりしますよね。
 図解すると、次のようになります。
 ・ 演繹法:(事前実験)仮説  → 事実検証 → 結論
 ・ 帰納法:事実検証 → 仮説 → 結論
 ・ アブダクション:結論 → 仮説 → 事実検証
 いま、常識や既成概念を打ち破るような研究開発の必要性から、アブダクション的な発想を取り入れる企業も増えているようです。もちろん、実用的な企画や製品に着地させるためには、大人的な演繹&帰納との組み合わせが重要であることは、言うまでもありませんが。
 そして、時代の流れを読み解くためには、この「アブダクション」を欠かすことができません。
というのも、いくら最初に流行事象などを集めて、帰納的にその原因を探ったところで表面的なことしか見えてこないからです。よく見かけるトレンド・レポートの類というのは、あくまでこの表面の流れを語っているにすぎません。例えば、「近頃、日本映画、落語、和の伝統色などが人気だから、日本ブームがトレンドだ」などのように。何故いま、「日本」がブームなのか、脚光を浴びているのか、その奥底の原因までは、見えてきません。こうしたトレンド・レポートを頼りに、企画などを進めても、後追い的なものしかできないでしょう。
 時代というものを動かしているのは、人々です。しかも、その人々自身さえも明確に意識できないような、心の深層の欲求や無意識が、結果的に時代のうねりとなっているのです。そんな、深層意識は、流行事象の表面をなでさすっていても見えてはきません。
 しかし、例えば「異郷化」といった何となく気にかかったキー・タームを、「コンテクストの芽」として心に留めておいたとしましょう。すると、前述したような「日本」的な動向が、意識されるようになります。「異郷化」と「日本」、一見すると相反するもののように見えますが、相反するからこそ何だかピンと来るのです。そこで二つを突合せ、アブダクション的にひとつの文脈に収めてみると、「『異郷化』による故郷喪失感が、『日本』を呼び寄せている」という仮説を、設定できました。そうすると、「黒髪」だとか、「昭和を舞台とした映画」とか、「落語のチケットの売れ行きがいい」などが、どんどんこの文脈の上に集まってくると思いませんか。
 表面的な日本ブームは、実はその根底に、グローバル化の反動による故郷や出自を求める欲求を秘めていたのです。ですから、単に日本趣味を満たすばかりではなく、人々の深層にある喪失感を埋めてあげられる様な、サービスなり商品なりが本当は求められているのではないでしょうか。このように、まず気になったり閃いたりした「コンテクストの芽」から結論、仮説を先に用意することで、普通には見えにくい深層に潜む原因に到達することが可能なのです。
 でも、そんな勘に頼ったような結論を用意したところで、うまい具合に動向や事例などがピンと来るのかと、疑う方もいらっしゃるでしょう。ところが何故か、うまく行きます。もちろん、前回述べたようなwandering & wonderingなど社会に広く意識を向ける努力は必要ですが、本当のところ、さほど力まずともピンと来ます。これは、「セレンディピティ」としか言いようがありません。このごろよく耳にする「セレンディピティ(serendipity)」、簡単に言えば偶然の出会いですが、決して何もせず待っていて幸運が舞い込むというものではないように思います。ある程度の努力や準備、小さなキッカケを見逃さない意識を持つことが、偶然の出会いや閃きの確立を高めるのではないでしょうか。
 考えてみれば、有効なキー・タームなどが気にかかるということ自体、私たちが時代に生き、時代を呼吸しているからに他なりません。そして、その時代のもやっとした気分を、明確な言葉、「コンテクストの芽」として心に留め置くからこそ、時代の流れを構成する個々の「コンテンツ」が見極められ、一見表面的には関係のないような事でも点と点が結びつくようになる、つまりセレンディピティが働きやすくなるということではないでしょうか。
深澤徳氏

(株)メディアボックス プランニング室
チーフプランニングディレクター
深澤 徳

1957年東京生まれ。1979年慶應義塾大学経済学部卒業、同年I &S BBDO(当時第一広告社)入社。広告クリエイターとしてキッコーマン、明治製菓、マツダなどのCMを制作(ACCほか広告賞多数受賞)。1987年から10年間に渡って、セゾングループの文化・CI戦略プロジェクトへブレーンとして参画。その後マーケティング・プランナー、コンセプターを担当。その間『消費の見えざる手』『In-Site』といった時代分析等の出版物の企画・執筆も行う。2000年にI &Sを退職後、潟激塔Rーポレーションを設立。チェコのアニメを主とした映像配給事業を手がけ、そのほか舞台公演など文化事業の企画や批評活動に携わる一方、NPO法人リアルシティーズの理事としてカルチャー情報サイト「REAL TOKYO」のサポート、寄稿を行う。2005年にレンコーポレーション退任後、現在は東京テアトルグループの広告会社である潟<fィアボックスに在籍、メジャー配給映画の宣伝・プロモーションを中心としたプランニングを行っている。

鰹、業界より刊行されている月刊『販売革新』に、時代潮流を解読するコラム「マーケティングのものさし」を連載中。

また写真やカルチャーなど私的関心を綴ったブログも公開中。
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