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それいゆコラム
コラム 奥村知花氏 「読書旅行を、ご一緒に。」
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「女の一生」を慈しむ

『たった1冊の本が、新しい世界へと私たちを誘い、何処かへと連れて行く……。未だ見ぬ遠い意識の世界へ旅をしてみませんか?』

 その時々の気分で、色々な傾向を持って読む本を選ぶのが常ですが、ここ最近の私はプライベートでは評伝ものを好んで読んでいる節がある。それも、決まって女性ものが多い。評伝は良い。自伝となると、よほどうまく書かない限り、その思いが強すぎて客観性が薄れてしまいがちですが、評伝となると、きちんと裏付けのとれたルポルタージュによって他人がまとめるものだから、その信頼度はグンと増すのだ。あとは、著者の想いや対象となるその主人公の想いを行間から想像し、膨らみゆく想像力に身を委ねて愉しむのが、私流、評伝の楽しみ方。

 女性も30代半ばになってくると、頑張って来た分だけ息切れするのかもしれない。自分が通って来た路を、ちょっと立ち止まって振り返ってみる。今は、ちょうどそんな感じ。そこには後悔も反省もなく、ただ、次にまた前を向く為に振り返るのである。

『尾崎 翠』 『尾崎 翠』
群 よう子 著
714円(税込)
文藝春秋 刊

 そんな「ちょっとひと息」には女性ものの評伝を読むのが、私には妙にしっくりくる。そんな考えは群よう子の描く『尾崎 翠』を読んだときから始まったように思えてならない。「尾崎翠」と云う名前を目にしたことはあっても、この人がどのような人なのか、文学を書く人なのか、随筆家なのか、歌人なのか、そういった想像力もなく素通りをして来た。恥ずかしながら、きちんと彼女の名前が私にインプットされたのは、三十路を過ぎ、この本を手にした時だった。この時程、それまで「尾崎翠」の文学に触れていなかったことを悔やんだことはないだろう。読んでさえいれば、もっとこの本を愉しめたのに……、と臍を噛む思いがした。

 とはいえ、本書が「尾崎翠」の文学を魅力たっぷりに紹介し、かつ彼女がどんなひとだったか、だから如何にして、このように素晴らしい文学を世に出すことが出来たのかを考察している為、私のように彼女を知らない人間までも「尾崎翠」に傾倒させる力を持つのはいうまでもない。

 若干36才で病により文壇を離れ、恋人を残して、夢なかばで故郷に帰ることを余儀なくされた作家・尾崎翠について「いつか彼女のことを書きたかった」と群よう子は切望した。  同じ、女性として生を受け、作家という路を選んだものとしての想いがあったのだろう。彼女を評するとき、群よう子はこう著す。

 -まわりと同じ、それでどこかほっとする。まがいものの美しさで手をうつ。そんなの、いつか消えてしまうと分かってもいるのに。自分の物差しをもつこと。そして、生き方のスタイルを確立し、つらぬくこと。憧れてはいてもけっこう難しい。ところがそれを昭和の初めにやってのけた作家がいた。尾崎翠。派手な活躍はしなかったけれど、自分にとっての「ほんもの」を求めつづけた姿勢は仕事にちゃんと残っている。彼女の小説は、いま読んでも新しい。これからもずっと古びない。-(扉記事より転用)

 このように、著者に愛情や執念を感じる評伝を読むと、一生懸命に生きて来た先人たちの惑いや情熱に過分に触発され、励まされる。
 記憶に残った評伝の中で、一番新しいのは『ちあきなおみ 喝采、蘇る。』であろう。

『ちあきなおみ 喝采、蘇る。』 『ちあきなおみ 喝采、蘇る。』
石田 伸也 著
1,575円(税込)
徳間書店 刊

アマゾンより内容を転用すると
 72年のレコード大賞受賞曲「喝采」で知られる歌手・ちあきなおみ。最愛の夫である俳優・郷 治が亡くなった92年、表舞台から消え去ってから早くも15 年。いまや「伝説の歌姫」と賛美され続ける彼女は、その後どうしているのか。実質上の「引退」以降のちあきを追い続ける迫真のルポルタージュ。明と暗。夫・郷との蜜月と永遠の別れなどの過去を、ちあきと縁の深い著名人らの新証言によって明らかになる。

 こちらも、残念ながら現役時代の「ちあきなおみ」を私は知らない。ぎりぎり、『たんすにゴン』のコマーシャルか、コロッケの真似する「喝采」くらいしか知らない世代である。彼女の歌う『喝采』の普遍的な素晴らしさだけが、この本を私に読ませる、ただひとつの動機だった。そして知ったのだ。歌手としての才能だけが人を惹き込んだのではなく、その歌声もさることながら、彼女の人としてのキャラクターこそが、沈黙しつづけ15年経ってもなお、人を惹き付けてやまないのだ。
 年端もいかぬわずか5歳で初ステージを踏み、地方巡業の下積み時代を経て歌謡界のスターダムにのし上がった彼女の「本当」は、極度の引っ込み思案で、毎回ステージに上がる舞台袖で震えていたという。聴く人誰をも魅了し「伝説の歌姫」とうたわれても彼女は、たったひとつの愛に向き合うことを選んだのである。

 こうしてみると、「尾崎翠」も「ちあきなおみ」も有り余る才能を持ちながら、不器用にしか生きられないひとりの女性のような気がしてならない。そして私は、そんな不器用さを愛おしいと思う。小利口になって、自分を騙し、いずれはそれも麻痺していく人生を選ぶより、いばらの路かも知れないが「自分の大切」と向き合う。そんな静寂さを恐れてはいけないと、そっと耳打ちしてくれるような2冊である。

奥村知花氏

奥村 知花(おくむら ちか)

「本しゃべりすと」。1973年東京都生まれ。成城大学文芸学部卒。フリーランスで新刊書籍のPRに携わりながら、「もっと読書の愉しさを広めたい!」をテーマに、「本しゃべりすと」として活動中。『本しゃべりずむ』
http://www.honshabe.com/

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