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それいゆコラム
コラム 瀬戸川礼子氏 「Hotel handbook 〜ホテルを使いこなせる人になろう〜」
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◎第5回 本物のお客さまになるための「上手なクレームの仕方」

 今回のHotel Handbookは「クレーム」(苦情、文句)をテーマにお送りします。

 快適なはずの滞在が、ホテル側の対応やミスによって不愉快なものに変わってしまい、「文句の一つも言わなければ気が済まない」となった場合、どのようにクレームを言えば相手に思いが伝わり、気持ちをすっきりとさせられるのでしょう。
 世間には、クレームを受ける側のマニュアル本はたくさんありますが、言う側の本は意外と見かけません。しかし、クレームを受ける方も大変でしょうが、言う方はもっと大変ですよね。なにしろ慣れていないのですから。
 悪いことをしたわけでもないのに心臓はドキドキ。言うタイミングも難しい。勇気を振り絞ってやっと言えても、相手の態度によってはさらに不愉快にさせられることもあります。「お金を払ってなぜこんな思いをしなければいけないの」と、やるせない経験をした方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 そんな思いをしないために、今回は「上手なクレームの仕方」を考えます。ただし、裁判沙汰になるような重いクレームは取り上げませんので、「掘り下げ方が足りない!」というクレームはご勘弁くださいね。

 まず、「上手にクレームを言うための7カ条」を考えてみました。
「上手にクレームを言うための7カ条」

 上記の7カ条は、親しいホテルウーマン・ホテルマンが本コラムのために語ってくれた話と、日ごろ取材で見聞きしていることを総合したものです。このように、クレームにはちょっと「コツ」がいるのですね。
具体的に見ていきましょう。

許せるものは許すべし。
何が許せて、何が許せないかは人によって異なりますが、覆面調査のように重箱の隅を突ついていてはせっかくのホテルも楽しめません。「まあ、いいか」と許す懐の深さも持っていたいものです。

クレームの真意を理解すべし
「自分は何のためにクレームを言おうとしているのか」、謝罪してほしい、部屋を替えてほしい、担当を替えてほしいなど、求める代償をはっきりしておきましょう。言った本人がここを理解していないと、なかなか解決に至らないのです。ちなみにホテルにはブラックリストと同類の「UGリスト」(undesirable guest。=招かれざる客)があって、UGの常套句はこれ。「謝ればいいってもんじゃない」。数時間もこれをうだうだ繰り返し、金銭の踏み倒しなどに持っていこうとするのです。信じられないでしょうが、残念ながらいるんですね。もちろん、ホテル側が普通のお客さまをUGと疑うなどもってのほかですが、昨今はUGやUGに近い人が本当に増えているそうで、見境いが難しいのが現実。こういう人たちと一緒にされないためにも、クレームの真意を自分自身が押さえておきたいものです。

その場で声に出すべし
これは2つの意味があります。
【1】分ってほしいなら声に出そう、【2】できるだけ「その場」で伝えよう、です。
【2】については、「滞在中は何も言わないのに帰ってからメールでクレームを送ってくる人が増えた」との声を、ここ数年取材先で聞く機会が増えました。「隣の部屋がうるさかった」、「食べられない料理が出た」、「スタッフが気に入らなかった」、「客室備品の使い方が分からなかった」など、ホテルからすれば「滞在中に教えてくれたらフォローできたのに、、、、」という内容が多いようです。限られた時間をクレーム解決に費やしたくない、という考えもあるでしょうが、嫌な思いをわざわざお持ち帰りする必要もありません。私がお勧めしたいのは滞在中の解決のほうです。言うタイミングは、嫌だと思った瞬間から近いほど理想的。けれどもタイミングを逃してしまったり、面と向かって言いにくいときは、客室から電話を入れるか、手紙を渡すのも手です。いずれもフロントが窓口になってくれます。

人を選ぶべし
クレームはデリケートな問題だけに、「あの人なら解決してくれそう」と思える人に話したいですね。クレーム発生源の本人に言う場合はともかく、やみくもに目の前の人を捕まえるのは合理的ではありません。少し見ていれば誰が適人者かは何となく分かるものです。でももしハズレだったら、、、上の人に出てきてもらうのも一案です。

論理的に話すべし
不愉快な思いにさせられたとき、感情的になるのは仕方のないこと。でも、そんなときこそ人が問われます。ここは感情をぐっと押さえて、5W1H(いつ、誰が、どこで、何を、誰に、どのように)で冷静に伝えましょう。あるホテルでこんな言葉を聞きました。「サービスする側・される側の上下関係がある中で、お客さまが不愉快な目に合いながらも紳士的な対応をしてくださったら、私たちは一目置きますし、何が何でも挽回して気持ちよく帰っていただこうと思います」

叱る前に褒めるべし
たとえば自分が人に叱られるとき、「なんでできないんだ」と言われるよりも、「よりによって、あなたともあろう人が」と言われたほうが素直に反省できませんか? 松下幸之助さんも著書に書かれています。「アドバイスするときは、相手が受け入れやすいように意を尽くすこと。一つ叱って、三つ褒めよ」と。

恥ずべき行為はせざるべし
万が一、相手が気持を逆撫でするような態度を取ったとしても、同じレベルで戦うのはやめましょう。ごみ溜めに石を投げると、汚い水がこっちにまで飛んできちゃいますからね。さっさとその場を去って二度と行かないのが賢明です。またBにつながる話ですが、もしも帰ってからクレームを言う場合は仁義を守りましょう。「弱い犬ほどよく吠える」ではありませんが、顔が見えないからといって面と向かっては言えないような暴言を言ったり書いたりするのは卑怯です。電話、手紙、メールのいずれも名前をちゃんと名乗ったほうがこちらの本気度や誠意が伝わりますし、相手も信頼して聞いてくれますよ。

以上、上手なクレームを言うための7カ条でした。

 途中で気付かれた方も多いと思いますが、ホテルに限らず、会社でもプライベートでもすべての場面で同じ原則が働くんですよね。「相手も人間」ということです。
 たとえば会社から「給料を払ってやってるんだから黙って働け」と言われたら面白くないように、「こっちは客だぞ」という態度に出られたら、やはり働く人だって面白くないのです。どんな場合も「人間的にやること」が大事なんですね。
 今回は私、ちょっと偉そうなことを書いた気がします。書きながら「あのとき、こう言えばよかったな」と、ふと手が止まることもあり、いやー、勉強になりました。
  クレームはないに越したことはありませんが、いわば「必要悪」なようなもの。撲滅は難しいでしょう。ならばいっそのこと、上手な言い方によってクレームから良好な人間関係を生み出してみたいですね。

瀬戸川礼子氏

ジャーナリスト 瀬戸川礼子氏

中小企業診断士、MBA。法政大学専門職大学院卒
宿泊・飲食産業の業界誌『週刊ホテルレストラン』(オータパブリケイションズ社)で、記者として活躍し、副編集長を務める。7年勤務した後、2000年にジャーナリストとして独立。 記者歴は07年から15年目に入る。現在は、専門としてきたホテル業・旅館業の取材のみならず、「サービス」、「顧客満足」という視点を核に、百貨店、銀行、ディーラー、病院、工務店などさまざまな企業に取材の場を拡張。 新聞・雑誌の記事執筆をはじめ、企業などから依頼を受け講演を行なっている。
著書に、顧客満足度の実践から理念までを紹介した『この18社に見つけた! 顧客満足度を生み出す仕組み』(同友館)、営業が一人もいないのに常に2年先まで受注残がある奇跡の工務店をルポした『グレートスモールカンパニー』(現代書林)がある。コスモ石油のホームページでも顧客満足に関する記事を連載中。

http://www.cosmogas.co.jp/
member/m1/g/g10.html


クレームにまつわるちょっといい話。

1 このホテルが好きだから「このホテルが好きだから」
あるホテルのブライダル見学会に参加した人が、担当者のぶしつけな対応についてクレームの電話を掛けてきました。一部始終を静かに伝えたあと、新婦に当たる女性は言ったそうです。「○○ホテルは地域で一番のホテル。地元に欠かせない存在で、個人的にも好きだから頑張ってほしい。二度とこのようなことがないよう、今後どう対策を取るのか教えてもらいたいので、私の連絡先を残しておきます」 
電話を受けた担当者は、「ありがたいお客さまで、頭の下がる思い」。披露宴を挙げてもらえるかは分からないそうですが、またぜひ利用してほしいとの願いを込めて事後報告をし、お客さまにも納得してもらったそうです。

2 とても素敵だったけれど「とても素敵だったけれど」
オリジナルのディナーショーを企画したホテルの話です。「いかがでしたか」と聞いた担当者に女性のお客さまは言いました。「ステージも食事もとっても素敵でした。でも、せっかくのディナーイベントなのに、なぜ煙草を吸わせるの? 隣の人が2時間ずっと吸い続けて閉口しました」。担当者は「ああそうか」と思い、この言葉を機会に次回から会場内を禁煙に。喫煙者からも好評だったそうです。「ステージも食事もせっかくよかったのに」と最初にイベントを褒め、「でも1本の煙草でこうなった」と段階を踏んで伝えてくれたため、アドバイスがより受け入れやすかったと担当者は語ってくれました。

3 おいしくなかった「おいしくなかった」
友人がホテルのレストランに行ったときのこと。次々おいしい料理が出される中、一品だけ「?」な味がありました。残された皿を見たウエーターは「お口に合いませんでしたか?」。友人は「ほかは全部おいしかったけれど、これはおいしくなかった」とはっきり。ウエーターは厨房で味見し、飛んで戻ってきました。「恥ずかしい話ですが、味付けが足りませんでした。もう一度出させてください」。友人は「気にしないで」と断りましたが、結局、さらに2品が追加され、連れから「皿を2倍にする女」と命名されたそうです。友人にはこれっぽっちも邪気がないことをウエーターも感じ取ってくれたのでしょう。

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