第5回 本物のお客さまになるための「上手なクレームの仕方」
今回のHotel Handbookは「クレーム」(苦情、文句)をテーマにお送りします。
快適なはずの滞在が、ホテル側の対応やミスによって不愉快なものに変わってしまい、「文句の一つも言わなければ気が済まない」となった場合、どのようにクレームを言えば相手に思いが伝わり、気持ちをすっきりとさせられるのでしょう。
世間には、クレームを受ける側のマニュアル本はたくさんありますが、言う側の本は意外と見かけません。しかし、クレームを受ける方も大変でしょうが、言う方はもっと大変ですよね。なにしろ慣れていないのですから。
悪いことをしたわけでもないのに心臓はドキドキ。言うタイミングも難しい。勇気を振り絞ってやっと言えても、相手の態度によってはさらに不愉快にさせられることもあります。「お金を払ってなぜこんな思いをしなければいけないの」と、やるせない経験をした方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな思いをしないために、今回は「上手なクレームの仕方」を考えます。ただし、裁判沙汰になるような重いクレームは取り上げませんので、「掘り下げ方が足りない!」というクレームはご勘弁くださいね。
まず、「上手にクレームを言うための7カ条」を考えてみました。
上記の7カ条は、親しいホテルウーマン・ホテルマンが本コラムのために語ってくれた話と、日ごろ取材で見聞きしていることを総合したものです。このように、クレームにはちょっと「コツ」がいるのですね。
具体的に見ていきましょう。

何が許せて、何が許せないかは人によって異なりますが、覆面調査のように重箱の隅を突ついていてはせっかくのホテルも楽しめません。「まあ、いいか」と許す懐の深さも持っていたいものです。

「自分は何のためにクレームを言おうとしているのか」、謝罪してほしい、部屋を替えてほしい、担当を替えてほしいなど、求める代償をはっきりしておきましょう。言った本人がここを理解していないと、なかなか解決に至らないのです。ちなみにホテルにはブラックリストと同類の「UGリスト」(undesirable guest。=招かれざる客)があって、UGの常套句はこれ。「謝ればいいってもんじゃない」。数時間もこれをうだうだ繰り返し、金銭の踏み倒しなどに持っていこうとするのです。信じられないでしょうが、残念ながらいるんですね。もちろん、ホテル側が普通のお客さまをUGと疑うなどもってのほかですが、昨今はUGやUGに近い人が本当に増えているそうで、見境いが難しいのが現実。こういう人たちと一緒にされないためにも、クレームの真意を自分自身が押さえておきたいものです。

これは2つの意味があります。
【1】分ってほしいなら声に出そう、【2】できるだけ「その場」で伝えよう、です。
【2】については、「滞在中は何も言わないのに帰ってからメールでクレームを送ってくる人が増えた」との声を、ここ数年取材先で聞く機会が増えました。「隣の部屋がうるさかった」、「食べられない料理が出た」、「スタッフが気に入らなかった」、「客室備品の使い方が分からなかった」など、ホテルからすれば「滞在中に教えてくれたらフォローできたのに、、、、」という内容が多いようです。限られた時間をクレーム解決に費やしたくない、という考えもあるでしょうが、嫌な思いをわざわざお持ち帰りする必要もありません。私がお勧めしたいのは滞在中の解決のほうです。言うタイミングは、嫌だと思った瞬間から近いほど理想的。けれどもタイミングを逃してしまったり、面と向かって言いにくいときは、客室から電話を入れるか、手紙を渡すのも手です。いずれもフロントが窓口になってくれます。

クレームはデリケートな問題だけに、「あの人なら解決してくれそう」と思える人に話したいですね。クレーム発生源の本人に言う場合はともかく、やみくもに目の前の人を捕まえるのは合理的ではありません。少し見ていれば誰が適人者かは何となく分かるものです。でももしハズレだったら、、、上の人に出てきてもらうのも一案です。

不愉快な思いにさせられたとき、感情的になるのは仕方のないこと。でも、そんなときこそ人が問われます。ここは感情をぐっと押さえて、5W1H(いつ、誰が、どこで、何を、誰に、どのように)で冷静に伝えましょう。あるホテルでこんな言葉を聞きました。「サービスする側・される側の上下関係がある中で、お客さまが不愉快な目に合いながらも紳士的な対応をしてくださったら、私たちは一目置きますし、何が何でも挽回して気持ちよく帰っていただこうと思います」

たとえば自分が人に叱られるとき、「なんでできないんだ」と言われるよりも、「よりによって、あなたともあろう人が」と言われたほうが素直に反省できませんか? 松下幸之助さんも著書に書かれています。「アドバイスするときは、相手が受け入れやすいように意を尽くすこと。一つ叱って、三つ褒めよ」と。

万が一、相手が気持を逆撫でするような態度を取ったとしても、同じレベルで戦うのはやめましょう。ごみ溜めに石を投げると、汚い水がこっちにまで飛んできちゃいますからね。さっさとその場を去って二度と行かないのが賢明です。またBにつながる話ですが、もしも帰ってからクレームを言う場合は仁義を守りましょう。「弱い犬ほどよく吠える」ではありませんが、顔が見えないからといって面と向かっては言えないような暴言を言ったり書いたりするのは卑怯です。電話、手紙、メールのいずれも名前をちゃんと名乗ったほうがこちらの本気度や誠意が伝わりますし、相手も信頼して聞いてくれますよ。
以上、上手なクレームを言うための7カ条でした。
途中で気付かれた方も多いと思いますが、ホテルに限らず、会社でもプライベートでもすべての場面で同じ原則が働くんですよね。「相手も人間」ということです。
たとえば会社から「給料を払ってやってるんだから黙って働け」と言われたら面白くないように、「こっちは客だぞ」という態度に出られたら、やはり働く人だって面白くないのです。どんな場合も「人間的にやること」が大事なんですね。
今回は私、ちょっと偉そうなことを書いた気がします。書きながら「あのとき、こう言えばよかったな」と、ふと手が止まることもあり、いやー、勉強になりました。
クレームはないに越したことはありませんが、いわば「必要悪」なようなもの。撲滅は難しいでしょう。ならばいっそのこと、上手な言い方によってクレームから良好な人間関係を生み出してみたいですね。 |