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それいゆコラム
柴田香織氏 「PIAN PIANO」 スローフードの良さ、楽しさを知る。
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第3回 ピザをめぐって

 ピザといえば、ナポリピザが一番おいしいというのが定説になりつつある、ように思う。私の初ナポリピザは中目黒のサヴォイのマルゲリータ(トマト、バジリコ、モッツァレッラチーズだけのピザ)で、シンプルな旨みに驚いたことを今でも覚えている。今や東京では本格的な釜焼きピザが食べられる店がずいぶんと増えた。表参道のナプレ、恵比寿のパルテノペ、白金のイゾラ、渋いところで下高井戸のトニーノ等、おいしいピザはいずれもナポリ式。ナポリピザの特徴は、もっちりした食感にあり、生地のふちが土手のように少し小高くなっている。2年ほど前、ついに現地(ナポリ)で食べたピザは、お腹にまったくもたれることのない安くて美味くてこれぞ庶民の味の鏡という一皿だった。何が違うのだろう?とその時思った。日本のナポリピザも十分おいしいと思っていたけれど、ひとつひとつの要素の小さな違いが結果的に圧倒的な違いとなるようだ。素材の鮮度、とりわけ日本の豆腐の存在に近いモッツァレッラチーズの鮮度、トマトの味の濃さ、香り高く胃に軽いオリーブオイルなどの積み重なり。思い出してしまったのでついでに書くと、ナポリのタクシーの運転手に勧められたピッツア フリッタ(揚げピザ)というのもあった。ピザを二つ折りにして揚げたもので、油っこさは不思議と皆無。外側のサクサク感とトロリとした内側のコンビネーションが絶妙で、何でどうやって揚げたらこうなるのかと感心してしまった。 

 現在住んでいるペルージャは全く以ってピザの本場ではないが、町の中心の観光客向けのレストランでは、大抵ピザをメニューに入れている。正直、ほとんどおいしくない。唯一に近い、いけている店Mediterranea(中田選手のお気に入りだったらしい)というピッツェリアがあり、ここもやはりナポリピザ。というような経験から、ピザを食べるならナポリピザというコードが私の中にできつつあった。

 ところがこの度、それを覆すほどおいしいピザに出逢ってしまった。アパートの同居人サラ、ダニエラ姉妹の作ってくれるピザだ。生地はナポリ風のふんわりしたものではなく、薄くのばして焼くのでクリスピーに仕上がる。
上にのっている具もこれまで食べてきたものと若干違うところでは、じゃがいも+ローズマリー、タマネギ、ズッキーニ+トマトという具合。もちろんモッツァレッラは必須。「イーストは天然のビール酵母を使うのよ。ドライイーストはまずいから使っちゃだめ。発酵するのに時間がかかるけど、天然じゃないと。 これってスローフードなんじゃないの?」茶目っ気たっぷりの妹ダニエラは若干22歳ながら、料理の腕は堂に入っている。素材に関する目利きでもあり、一緒に買い物に行くと教えられることが多い。


 ある日、姉妹のママに会って納得してしまった。なぜならプロシュートの中でも最もおいしいといわれるサンダニエレを持っていきなりアパートに現れたから。この生ハム、赤ちゃんの肌のように美しいピンク色で柔らかく、味は極めてデリケート。その他にママが娘たちのために運んできたのは、自分の町のじゃがいも、オリーブオイル、肉などだった。

 姉妹のピザがどれくらいおいしいかというと、翌日特に温め直さなくてもいけるといったらわかるだろうか。彼女たちの出身地がラツィオ州(州都ローマ)なので、これってローマ風ピザなの?と聞くと、「わからない。ママが作るのがこれだから。」という一言で、それ以上聞く必要性を感じなくなってしまった。彼女たちは現在大学生で、家を離れているけれど、家族で住んでいる時にずっとママの台所を手伝って、自然にレシピを覚えてしまっているのは明らか。彼女達が料理本を見ながら調理している姿は見たことがない。イタリアの家庭の味はこうして守られていくのか、負けましたなあと思ってしまった。

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