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それいゆコラム
柴田香織氏 「PIAN PIANO」 スローフードの良さ、楽しさを知る。
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第7回 日本に帰ったら

  年末に半年振りに日本へ戻ってきた。2月末からようやくというか、いよいよというか食の大学のマスターコースがパルマで始まる。ここにいたるまで大学から突然の追加資料の提出依頼やら音信不通やら、突発電話インタビューやら、極めつけは最終の合格通知とともに送られてきた相当一方的な契約書とか、それなりにいろいろなことが起こった。きっとこれからもいろいろ起こるのだろうが、現在つかの間の一休み中である。
イタリアを発つ前に、同時期に日本に戻る友人と日本に帰ったら何が食べたいかという話題で盛り上がった。旅行へ行く前の計画中の期間がとても楽しいように、あれこれ思い浮かべしゃべっているだけで結構幸せな気分になる。

トリノでのスローフードのイベント「サローネ・デル・グスト」では寿司と白ワインのコラボレーションを意図した寿司レストランが企画され、集客力抜群だった。

 私の友人はうなぎに決めていた。あの蒲焼の匂いが嗅ぎたい、そう言われると自分もつられてうなぎ気分になってしまったり。結局私の帰国飯はこてこてだけれど、寿司になった。スミイカ、サヨリ、ミル貝、サバ、ウニ、アナゴ、マグロ・・・。食べながら心地よい脱力感を覚える。ああ至福。
 ペルージャは内陸部で海がなく、住人達も元々あまり魚を食べないので、おいしい魚に出会える機会は皆無に近かった。たまに日本から送ってもらったカツオ節やこんぶでダシをとったり、海苔を食べたりしていると同居人達からは臭がられた。中でも海苔は本当に不評。焼き海苔なんて、慣れ親しんでいる者にとってはそんなに臭みが強い食材とは思えないのだが、磯臭さがだめらしい。おいしいといって食べてくれる方法はないものかと、きのこのパスタをバターと醤油で和風の味付けにし、刻み海苔をかけてみたりもした。海苔をふりかけるまではキャーいい匂い、食べさせてーと言っていたのに、フィニッシュに海苔をかけた瞬間ブーイング。相当にだめなのだ。

バリエーションに富んだ日本のお菓子はイタリアの若者に大人気。

帰国中、宿泊した宿での朝食メニュー。塩鮭にブロッコリーの胡麻和え、卵焼きなど。普段の朝食では食べないけれど懐かしい味。

日本もそうかもしれないが、イタリアの地方は本当に味に保守的だ。魚料理が定着しているのは南の方や海沿い、都会中心で、寿司を食べたことがあるというイタリア人はミラノやローマの都会人や海外旅行経験の豊富なビジネスマンかリッチな方々が多いように思う。そのせいか、寿司は洗練されたハイソな食べ物として位置づけられているようで、寿司を食べたことがあるというイタリア人はちょっと得意気な感じだ。日本に住んでいたイタリア人で寿司が大好きだという人に、ネタは何が好きなのかと聞いたら「コハダ」という答えが返ってきた。彼の表情はどうだ、俺ってすごくない?といわんばかり、に見えた。勝手な推測だが、日本文化というのは食文化含めちょっと知的な層の方達を刺激する魅力を持っており、一見わかりにくいがために、探究心をそそる側面も強く、わかった、感じたと思った時の喜びの大きさが一入なのかもしれない。寿司の酢飯やワサビ、そもそも生の魚が外国人にとっていきなり食べておいしいとは思えないし、コハダなんてなおさらだ。日本人の自分でも、昔は青光りしているのが気味悪く、食わず嫌いだった。コハダと言ったイタリア人は、コハダということで自分の寿司経験、和体験の豊富さを暗に示唆したかったのかもしれない。なんか日本的だ。寿司に限らず、そばにしてもダシの味わいにしても和食の美味しさというのは後天的にわかる味が多いような気がする。言い換えれば個性的で固有性が強いということなのかもしれない。そんな味ほど離れていると心底欲するし、しばらくご無沙汰した後の味わいには、また格別なものがある。

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