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それいゆコラム
柴田香織氏 「PIAN PIANO」 スローフードの良さ、楽しさを知る。
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第11回 大地の豚と大西洋―スペイン
魚市場。手前の魚はハタ。一匹12ユーロは安い?

スペインの日は長い。5月末現在、22時を過ぎてようやく日が沈む。人々が夕食を食べ始めるのはそれからだ。5月18日から約2週間の行程でスペイン研修に来ている。大学のプログラムの売りのひとつが食の現場の研修旅行で、1年間のうち約2ヶ月半、イタリア国内とヨーロッパの数カ国でその土地に根ざした食材の生産者や加工の現場を見て回る。皿に盛られた食材をテーブルの上で味わうだけでなく、皿の外からも知る、味わう、エノガストロノミーという考え方がスローフード運動では大切にされている。食べ物は本来、人間の歴史と知恵がつまった文化的な存在だ。でも、日常の食事の中ではなかなかそんなことを意識することはない。この研修旅行はまさにエノガストロノミーを体感する機会。研修レポートの一部は、スローフード協会の発行している会員向け雑誌に掲載されることが予定されている。今回のスペイン研修で回ったのはスペイン北西部のカスティリア レオンとガリシア地方。カスティリア レオンでは世界遺産となっている街サラマンカを拠点に、D.O=産地限定呼称(特定の気候風土を持った土地で産出、製造される、特色と品質を兼ね備えた生産品に与えられる呼称)のハム、チーズ、ワイン等の生産現場を回る。一方ポルトガルとの国境に近いガリシア地方では、カトリック教徒の巡礼の地としてこれまた世界遺産に認定されているサンティアゴを拠点に、スペインの漁獲高の四分の一を占めるという豊富な海産物の養殖の現場や加工場などを中心に回る。そしてもちろん味わう。

さて、私達の研修の一日はこんな具合。日によってテーマとなる食材があり、それを中心に見て回る。例えば5月19日(木)。この日のテーマはイベリコハム。

10時〜14時 ホテルの会議室でスペインの食ジャーナリストによる講義。研修旅行中に見る及び食べる食材を中心としたスペインの食文化の講義。(これは3日間行われる)
イベリコハムのプレゼンテーションを受けながら夕食。 部位により4本のナイフを使い分けて切られる。
14時〜15時半 街で自由に昼食。各自15ユーロまでは学校負担。タパス(小皿料理)をつまみながら、ワイン2杯で一人8ユーロ程度。
16時〜19時  イベリコ豚の放牧を見ながら、イベリコハム協会の広報の方に話を聞く。
20時 ホテル着。
22時〜   夕食。この日はイベリコハム協会によってオーガナイズされたレストランで、 イベリコ豚のフルコース。ハムはもちろん、ほほ肉の煮込みなどもいただく。

イベリコ豚は時間と場所を要する種族。効率が悪いという理由で一次絶滅の危機に陥ったこともあるという。そんなことはいざ知らず、放牧中の豚たちは実にのびのびと動きまわっている。広大なコルク樫の林で放牧され、一頭当たりに必要な広さはおよそ1.5〜2ヘクタールというから随分広い家?庭?だ。遠巻きに我々の様子を伺っている姿は愛嬌があり、色黒なので、水辺で泥遊びをして涼をとっている様子はまるでカバのようだ。10月から2月にかけては、森林のどんぐりを1日6〜10キロ食べまくる。これが肉質に独特の風味を与え、良質な脂質を形成する。イベリコハムはオリーブオイルにも多く含まれているオレイン酸をたくさん含んでいる。これは不飽和脂肪酸で、良質な脂。融点が低いため、口に入れた瞬間に嫌味の全くない油脂がとろけ、どんぐりが手助けした特別なアロマを放つ肉と絡む。霜降り好きの日本人にはたまらない。

サラマンカの郊外で放牧されているイベリコブタ。足が長いのが特徴。 スペインのD.Oチーズのひとつ、SanSimonを製造しているご家族。 17世紀の建物を利用しているワインの醸造所。 中庭にはブドウの他にオレンジ、レモンの木も。

そういえば、イベリコハム協会の人が、日本の松阪牛はビールでマッサージして肉質を柔らかくするそうですが、うちは放牧とどんぐりです、と胸を張っていた(ように見えた)。どんぐりシーズンが終わった瞬間が最も肉質が良いため、この時期に絞められたものは特にJamon Iberico de Bellotaと呼ばれ、通常のイベリコハムよりも一段格が上がる。通常2年から3年熟成された後に出荷され、1キロあたりスペインで70〜80ユーロ。日本での販売価格は倍だとか。現在は海外向け及び贈答用としてのマーケティングが成功し、イベリコ豚は手間隙かかっても生き延びる道を見出した。シラク大統領もイベリコハムのファンで、スペインの大統領は毎年贈っているとか。

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