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それいゆコラム
柴田香織氏 「PIAN PIANO」 スローフードの良さ、楽しさを知る。
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第13回 彷徨える民の場合
ナス、トマト、じゃがいも、とうもろこし、アーティチョーク・・・これらの野菜の名前を見て、一体どこの土地が思い浮かぶだろうか。ナス、トマトは南イタリアを代表する野菜だし、アーティチョークもヨーロッパでは良く食べられる野菜。とうもろこしの粉を時間をかけて練って作るポレンタは、北イタリアの冬を象徴する食べ物だ。いずれもヨーロッパの食文化に欠かせない食材であることは間違いない。
豊富なトマトの品種。原産地は南米。
が、これらの中にヨーロッパが原産地の野菜はない。いずれもある民族によってヨーロッパにもたらされたものである。南米から、北アフリカから。彼らは国を持たず、世界のいろいろな土地に渡り、移動し、あらゆるものの仲介に従事してきたー彼らはヘブライ民族(ユダヤ民族)と呼ばれる。旧約聖書によって、食べてよいもの、いけないものが決められている彼らは、移動した土地で自分達に禁じられていない食材を見つけ、食し、それをまた他の土地に仲介してきた。やがてそれらは、他人の土地の食文化として定着していった。タブーの中でも、最も有名なのがブタである。ブタが食べられない彼らが、脂肪分を補給するために食してきたもの、それは鵞鳥だった。鵞鳥といえば、仏料理を代表するフォアグラが思い浮かぶが、フォアグラもヘブライの重要な食べ物で、北ヨーロッパに持ち込んだのは彼らだったのだ。宗教的に迫害を受けても、彼らの食習慣が迫害を受けることはなく、カトリック、イスラム圏に持ち込んだ食材は広まっていった。ローマ法王の食事のレシピにもフォアグラが記録されている。
ヘブライの食の話なんて、いささか唐突かもしれないが、我々の授業にも唐突に登場したのだ。約一週間続いたヘブライの食の授業は圧巻で、改めてこの民族の黒子ぶりに驚愕してしまったのだ。なぜ、今まで全く気づかなかったのか。確かにイタリアにはゲットーと呼ばれるヘブライのコミュニティが今もある。ローマ、ベネチアが有名だが、他に北イタリアの美食の州といわれるピエモンテ、トスカーナ、我がエミリアロマーニャにもあるそうで、これらの土地がいずれもイタリアの中で経済的に豊かなのは、彼らの存在と無関係ではあるまい。ローマでは、ユダヤ風アーティチョークというメニューをレストランでよく見かける。オイルでギタギタしていてお腹にもたれるので個人的にはあまり好きではないが、彼らがオリーブオイルでなく、鵞鳥の油を使うという話を聞き、お腹にもたれたのはオリーブオイルでなかったのかもしれないと思うと、妙に合点がいく。

研修で訪れたピエモンテ州の大手ワインメーカー フォンタナフレッダ。この日はワインの生産者を 招いての夕食会が敷地内で実施され、 我々も参加。 フランス国境に近いConca del pra。 夏は山の上の高原でチーズ用の牛・羊などが 放牧される。 リコッタチーズの一種Saras del fenを作っているところ。リコッタは他のチーズをとった後の凝乳から作られるが、このリコッタはさらにミルクを追加して作るため他のリコッタより濃厚な味わい。

また、ボローニャやラベンナなどエミリアロマーニャの一部で見るピアディーナという発酵させないペタンコのパンは、その土地の名物とされているのだが、これもヘブライ人がパスクワ(復活祭)のときに食べる伝統的なパンだという。「ヘブライには食文化がありません。これは土地に根付いた食材を持たないということです。ただ、我々は食材を仲介してきました。」教授の黒い瞳と経典を唱えるような独特の口調は説得力、いや魔力さへ持っている。それにしても、「ああ食べ物よ、お前もか。」と呟きたくなってしまう。不意に、ヘブライの金融大富豪ロスチャイルド家の赤い紋章が頭に浮かび、世の中のいろいろなことを勘繰ってしまいたくなるのだった。

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