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それいゆコラム
柴田香織氏 「PIAN PIANO」 スローフードの良さ、楽しさを知る。
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第15回 ミルクのカタチ 〜チーズ祭り@ブラ〜 その1

「山から下りると、ストレスが溜まる・・」露店の梁から吊り下げられた、高原の牛や羊がつけるような鈴をカランカランと鳴らしながら、親父は独り言ちった。彼はサルデニアのペコリーノチーズ(羊のチーズ)の生産者であると同時に、羊の飼育者でもある。我々に試食用のチーズを無造作に切り分けながら、突如鈴についたひもを引っ張り大きな音をたてたので、その理由を聞いたのだ。鈴を鳴らすと、いくらかストレス解消になるという。濃い眉、無精髭がそのまま伸びたような顎鬚、ギョロリとした目はニコリともしない。頭にチョコンと載った毛糸の帽子が不釣合いなような、妙に似合っているような。そのいでたちは、ついさっきまで山で羊を追っていたかのような臨場感がある。

本文中に登場する、サルデニアからやってきた羊飼いのおじさん。

9月16日から19日、トリノ近郊の小さな町ブラは、世界のチーズで彩られた。隔年ごとに行われるこのチーズの祭典は、今は生産量が劇的に減ってしまった生乳で作るチーズのおいしさ、何よりチーズの個性を知らせるための場を提供しようとスローフード協会が企画したものだ。1997年に始まったこのイベントは、今年で5回目を迎える。10万人もの集客を誇るこのイベントは、小さなブラの町の重要な観光資源となっている。また、ブラから少し足を伸ばせば、イタリアワインを代表するワイン生産地のひとつバローロや、トリュフで有名なアルバに行くこともできる。チーズ祭りの企画のひとつ『DINNER』では、アルバやバローロの一部のレストランやオステリア(レストランよりもカジュアルな雰囲気とサービスの料理屋)が夕食の会場となり、イベント期間中の一日だけ、この地方の食材に特化するなど特別なメニューが組まれる。食事に合わせるワインは、ご当地のワインはもちろん、イベントに協賛しているイタリア各地のワインとの組み合わせでも供され、協賛メーカーにとっては魅力的な場で商品のデモンストレーションができることになる。チーズ祭りとはいっても、チーズだけではなく、イベントに参加しながらブラを含むランゲ地方の景観を楽しんだり、個性的な土地の食材、イタリア中のワインを味わうことができるわけだ。こうした有機的な場の演出が、チーズ祭りの人気を持続させていると一因ではないかと思う。

サルデニアのチーズ「フィオリ・ディ・サルド」のラボ。熟成期間の違うものを順に味わう。 子供向けのチーズ講座も開催される。 小さなブラの街中が会場になる。

催しの中でも、個人的にずっと注目しているのが味覚のラボだ。
このラボでは、チーズをプレゼンテーションする方法として、数種類のチーズを比較しながら味わうという方法がとられる。例えば『ハード対決』と称されたラボでは、3種類の硬質チーズ イタリアのグラナパダノ、オランダのゴーダ、スイスのスブリンツを比較するという具合。プレゼンターにはチーズに精通した専門家や生産者、販売者の他に、チーズと合わせるワインの関係者も並び、立場の違う3名程度が順番に、時にディスカッション形式に話を進める。チーズの製法や特徴、見方、歴史的な背景やエピソード、ワインとの相性などが語られる。参加者は、プレゼンターの誘導に従い、感覚器官を全て使ってチーズを分析する。見た目、匂い、触感、食感、味の違いを比較し、分析するという視点で食べ物を味わうことで、普段何気なく食べている時より注意深く感覚器官を使い、食べ物を知るのだ。

「ヤギチーズの家」と称された会場で行われた味覚のラボ。 ヤギチーズ専用のパンフレットには各チーズの特徴が端的にまとめられている。

そして違いを言葉で表現する。匂いや味は、違うとわかっても、いざそれを言葉で表現しようと思うと実に難しい。味覚は主観的な性格が強いものなので、自分の表現が他人には?だったり、他人の表現が自分には?だったり。それでも共有できる言葉というのがいくらか見つかるものだ。それらは客観的な味覚を表現する語彙となる。

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