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第16回 ミルクのカタチ 〜チーズ祭り@ブラ〜 その2

今回のチーズ祭りでスポットが当てられたのはヤギのチーズ。『CASA DEI CAPRINI』(ヤギの家)という会場が設けられ、17カ国から105種類のヤギチーズが集合した。現在は牛や羊に比べて影の薄さが否めないヤギ。匂いの強烈さを思えば当然の結果だろうか。私もヤギのチーズは苦手だ。授業のプログラムにより強制的にヤギチーズのラボに参加することになったのだが、果たしてヤギ嫌いは克服されるのだろうか?まず、ヤギの歴史がチーズ博士によって説明される。
我々の大学でチーズの授業も担当しているこの博士、彼にチーズを説明されたらイチコロだ。イタリア人っぽい熱すぎて締まりのない語り(一般的に多い)でなく、冷静にしかも興味のつきどころが旨い。うならせられる。なるほど、ヤギのチーズがマイノリティになったのは、ヤギ自体の養育率の低下だ。

ロビオラ ディ ロッカベラーノ。ヤギチーズで目下マイランキングNo1。真ん中の白い部分は全く酸化していい。外側部分との味の違いを比べるのも面白い。

それはヤギが他の家畜よりも生産性が低い上に扱いにくいから。生産性が低いというのは一頭当たりのミルクの量が少なく、肉はほとんど食用にならないということ。牛を見ればあきらかだ。ミルクは大量に出る、チーズも作れる、肉は食べやすい。おまけにヤギは山の上の方での放牧を好む。自分の好物の草木を見つけに崖の上までいってしまう。飼いならしにくい、個性的な動物なのだ。この類のものはことごとく、大量生産・効率化の社会の中で切り捨てられていく。こんな話を聞くにつけ、人間社会もたいして変わりないよなーと思うのだ。研修で、狭い家畜小屋に入れられて雄叫びをあげて目を血走らせている牛ろで試食。今回はイタリアのヤギチーズ4種類。ひとつめのサフランでほんのり香りづけする方法は南イタリアの伝統。そのせいか臭みは感じない。ヨーグルトのようなさわやかな酸味がある。フレッシュ。ヤギのチーズは羊や牛に比べて脂肪分が少ないため、熟成にはあまり適さない。フレッシュな状態で食べてこそのヤギなのだ。これまでどうしてもヤギが臭いと感じてしまったのは、いい状態で保存するのが難しいからなのだろう。 やブタを見て満員電車を連想してしまったのを思い出していたとこ

二つ目は、外側に干草を巻いて、何度も取り替えながら3ヶ月程度熟成させたもの。こちらは、干草の風味がしっかりついてこれまた食べやすい。さて、灰かぶりチーズ。かつて何度も挑戦して挫折した。この灰はジネプロという植物(こちらではよく聞くが、辞書をひくと西洋ビャクシン、ムロと書かれている。ヒノキ科らしい)。灰を塗すのは殺菌効果があるからだとか。これもさわやか。ジネプロというあまりなじみはない植物の芳香がついている。結局全て完食してしまった。

「ヤギチーズの家」と称された会場で行われた味覚のラボ。 リグリア海岸付近の島で。山から下りてきた 野生のヤギ。

味覚のラボはいつも楽しい。いろんな食材に発見がある。味覚というより、感性全体が刺激される感じだ。それは知識を与えるというより、興味を喚起させるプレゼンテーションとして、このやり方が適しているからではないかと思う。日本の食材でやってみても面白いものがたくさんありそうだな、といつも思う。チーズは西欧人の重要なタンパク源だった。今もそうあり続けてはいるけれど、生乳のものは確実に減っている。

本文中に登場する、サルデニアからやってきた羊飼いのおじさん。

多くのミルクは衛生上の観点から高温で熱殺菌される。チーズのカタチはしていても、中身に含まれているものは同じではない。熱殺菌によって、チーズに風味や栄養価を与える酵素の働きや良質な微生物も全て死んでしまう。カタチや色のコピーはできても、中身のコピーはできない。冒頭のペコリーノチーズも、今やパルミジャーノレジャーノと並ぶイタリアを代表するチーズであり、その多くは放牧を知らない羊により、工場で大量生産されたチーズだ。放牧させる場合、放牧期間中のミルクで作ったチーズと冬家畜小屋でとったミルクでは当然味が違う。ある飼育業者は言った。放牧させないのは、消費者が味の変化を好まないからだと。 年間を通じて均質な味を保つことがクオリティだと。そうかも知れない。でも、放牧した時のミルクで作った味わいの違いを知りたい人は果たして少数派だろうか?サルデニアからやってきた羊飼い親父のペコリーノは当然放牧ミルク。今回試食したペコリーノでもピカイチだった。濃―いミルクとバターのようなコク。そして、親父のなにかが入っている。これは誰にもコピーできない。

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