画家も人間、キャリアを積む上での軋轢、パートナーそして家族との葛藤があります。
華やかなキャリアを送ったヴィジェ・ルブランもまた、軋轢と葛藤のうちに生涯を過ごした画家です。
フランス革命で処刑されたマリー=アントワネットの肖像を描き、池田理代子の不朽の名作『ベルサイユのばら』にも登場するヴィジェ・ルブラン。
現在、この画家の作品が、丸の内の三菱一号館美術館に集まっています。
彼女はヴェルサイユ宮殿の王侯貴族の肖像画で成功します。
そして権威ある王立絵画彫刻アカデミーの会員にもなります。
しかし、着実にキャリアを積み上げて来た彼女の運命は、フランス革命によって暗転、12年にも及ぶ亡命生活を余儀なくされます。
ようやく帰国した時には、様変わりしてしまったフランスになじめず海外滞在を繰り返しています。
長期の海外滞在経験者が帰国後に感じる悩みは、大なり小なり、今も昔も変わらないのでしょう。
その波瀾万丈の人生は、彼女が晩年に著した『回想録』に詳しく記されています。
ところがこの肝心の『回想録』、ずいぶん脚色されていることが明らかになってきました。
このセミナーでは、これらの最新の研究成果をもとに、有名な肖像画家と夫のパートナーシップに焦点を絞ってお話をしたいと思います。
夫のルブラン有名な画商でした。
そして妻は『回想録』ではひた隠しにしているのですが、実はこの夫、妻のキャリア・アップを助けていたのです。
限られた時間ですが、展覧会理解の一助になれば幸いです。
三菱一号館美術館 主任学芸員
安井裕雄(やすいひろお)氏 |